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トトロの口臭

となりのトトロというものを30年ぶりぐらいに見た。

コロナ禍ですさんだ心に何か響くものがあるのではないか、と思ったからだ。
人生に迷い立ち止まった時には、ふと過去のどこかに立ち戻りたくなるものだ。
童心に戻ることで、身にまとわりついた汚れを振り払う。あたかもパソコンを復元するような行為。

再生。オープニングの曲が流れた途端、思わず体がこわばってしまった。
平和に満ちたキャラクターと「私は元気」というポジティブな言葉に打撃を加えられた。
小汚い赤ちょうちんでしこたま粗悪酒を飲んだ後、さあ二軒目に行こうと間違って幼稚園の扉を開いてしまったような、気まずさと恥ずかしさ。

汚れちまった、これだけ生きてきて得たものはただただ、汚泥だけだった。
満ち満ちた幸福を額面通り受け止めることが出来ないひねくれ者。
童心は戻るものではなく、遠く眺めるだけの存在となっていた。

それでも見続けると、自然と映画のリズムに体が馴染んでくる。
姉妹やたら元気やなぁ、とかスカートやたら捲れ過ぎとちゃう?とか物語に入り込むというよりは、姪っ子を見守るような感覚。
これは田舎への帰省ムービーなのだ。

でかいトトロに初めて妹のメイが出会った時は、トトロの鋭い爪を見て「近づいちゃだめだ!メイの首が吹き飛ばされてしまう!」等と本気で心配したりした。
野生をそこまで信用するべきではない!
トトロにつかまって空を飛ぶシーンも、いつ野生の気まぐれが目覚めて振り落とされるんじゃないかと(すなわち姉妹の死!)気が気ではなかった。

姉妹には幸福になって欲しいな、と完全におっさんモードである。

トトロの呼吸をモロに顔面に受けて臭くないのかな?とか、猫バスが扉を開くときはちょっと痛かったりするんかな?とか色々思う事もあったけど、全体としては穏やかな気持ちで良い時間を過ごした。
空想と現実の境界が曖昧で、登場する大人達もそれをはっきりと分けないおおらかさが映画全体を覆っていて、なごみの時間って感じ。



# by shiitakesentaku | 2020-10-26 12:57 | 2020年10月

いきなりステーキの乱

先日イベントの打ち合わせということで昼に呼び出され、喫茶店に行くのかな、と思っていたら「いきなりステーキ」なる店に連れて行かれた。

この店で話し合いは可能なのか?と思ったが、いきなりステーキは初めてだったし、何が「いきなり」なのか気になっていたので興味しんしんで入店した。

ハンバーグをオーダーしてトイレに行こうとしたら、まさかの「トイレ貸し出し中止」
飲食店でトイレ貸し出さんとかあるんかいな?尿意は不意のことにつまづいて途方に暮れている。
外に出てコンビニに行くも、コロナの影響でトイレは貸し出していない。やむなく駅まで引き返す。
雨、しとど濡れる。何か不穏な未来を象徴しているかのような灰色の街並み。

店に戻るとすぐにハンバーグが到着した。
鉄板の上で肉汁を溢れさせながらジュージュー音を立てている。
隣に座った三鶴さんは紙のエプロンをしてて、そんな滑稽な姿したくないなぁと思ったけど、すぐにその意味が分かった。
新鮮な魚介類がぴちぴち暴れ回るみたいに、肉汁が鉄板の上で踊り、飛び跳ねている。

ぎゃあ!被弾してしまう!
僕は紙エプロンを付け、その裾をひざ頭で持ち上げて、テーブルの裏にぴったりと押し付けた。さながら日除けシェードを軒下に張るような格好になった。

人と人との関係には距離感ってものがあるんとちゃうの。まあ人と肉汁の関係やけど。いきなり距離を詰められても、こちらの心の準備が出来てないと受け入れれないよ。しかもコロナ禍でテーブルに仕切りが出来ていて、スペースが狭い。逃げ場がない。
さながら闘技場で殺し合う奴隷、グラディエーターである。

ハンバーグはそのままだと、中に熱をこもらせて肉汁飛び散らせ事変は長引くであろうとの予測から、必死にハンバーグを細かく切り分ける。解体して生命力をそぎ落とす作戦である。少年格闘漫画のような、血で血を洗う肉弾戦は続く。

そのようにしてなんとか食べ終わることが出来たが、達成感というよりも虚脱感。肉汁まみれのエプロン姿で、僕はあの頃夢見た、りっぱな大人になっているのだろうか、、、

ソーシャルディスタンス、という観念をぶち壊して一気に距離を詰めてくる、素手で殴りあうような関係の取り方。それこそがいきなりステーキのいきなりなるゆえんなのであった。

日常生活でそこまでがんばりたくないなぁ。

# by shiitakesentaku | 2020-10-24 09:58 | 2020年10月

念仏を唱えるようにチャリを漕ぐ

ジモティーという売買サイトを見ていたら、自転車を2000円で売るとの投稿があった。ただし後輪はパンクしているとのこと。

そんなに安いのなら、多少ボロくても割に合うだろうと連絡を取った。

初めての個人売買で初対面の人に合うのも緊張したがすんなり、なんなく取引は成立。

僕はその時得々としていたのだ。
SNSにアップして「超お得な買い物をした。僕は幸運に恵まれた選ばれた人間なのだ」ということをここぞとアピールしたかった。しかしその思いもつかの間のことであった…

近くの自転車屋に持って行くと、後輪のタイヤがダメになっているので交換せねばならないとのこと。その為には5000円ほどかかると言うのである。タイヤがダメでも中のチューブを交換すればしばらくは走れる(それでも3500円は取られる)泣く泣くチューブだけ交換してもらう。

僕は絶望の底に叩き落とされた。突然地面がパカッと開き、地の底の拷問空間に投げ込まれたのだ。
世界はその輝きを失い、暗澹たるモヤがすべてにかかる。

ことわざにこういう人間がいたなぁ。まんまとその轍を踏んでいる。安物買いの、卑俗な阿呆である。

全部整備すると、結局安い新車を買うのと同じ値段である。しかも手元に残るのは錆サビの中古車である。タイヤが破損して、いつパンクしてもおかしくない爆弾を抱えた。

呪詛・呪詛・呪詛。

しかしその激烈な想いはぶつかるマトを探し求め、ようやく見つけるだろう。
自分が一番の的であるということを。
自分だけは得しようと、浮足立って現実をよく見れなかった自分の愚かさを。

その昼たまたま道元という仏教徒の特集番組を見ていたのでその影響か、念仏を唱える代わりに僕は小雨の降りしきる中を、ひたすらにペダルを漕ぎ、疾駆したのであった。

自転車の受け渡し場所から自宅まで30分、僕の存在はただひたすら漕ぐ、という存在になった。

一切に仏性があるだと?僕はどこへいっても僕なのだ。悟りなど消費してしまえ。ペダルを漕ぐ。向う先はどこでもない、僕というものが果てしなく続く無限空間なのであった。
# by shiitakesentaku | 2020-06-23 09:10 | 2020年6月

フローラル

近所のドラッグストアでトイレットペーパーが安売りしていた。
普段買っているペーパーよりも若干浮ついた感じのパッケージデザインに躊躇したが、値段に負けて買ってしまった。

「サンスタイルカラー・花束の香りつき」

家に帰り包みを開けると、そこにはピンク色した謎の巻物がぎっしりと詰まっていた。
サスペンス映画で言えば、扉を開けたら部屋中血だらけ、のシーンである。

「ぎゃああ、どすピンク、、」

我が家にそのような悪質なピンク色の物体がかつて存在したことはなく、異星からの侵略者なみのインパクトである。
そして花束というよりもむしろ、花っぽさを無理に演出したケミカル臭であるがゆえに否応もなく公衆便所を想起させる香りを致死的に放出している。

お家に帰りたい、、しかしここは、お家なのであった。

買ったものはしょうがない、使うしかない。とトイレットペーパーホルダーに装着したが、なんとも収まりが悪い。
トイレットペーパーホルダーに感情があるわけ無いのだが、明らかに不服な顔をしている。
いや、背後から拳銃を突きつけられながら「この人は友人なんで何も問題ないですよ」と無理やり言わされているような顔の硬直状態、緊張感なのであった。

このような悪質行為が行われている空間にはもう行きたくない。
しかし、行かざるを得ないのだ!

私は極力ペーパーを見ないようにして、わんこ蕎麦をこなすような感覚で必要以上につるつると多く消費しようと努めていた。
なんでこんなに頑張らなければならないのだ、日常の、何気ない、一コマで。私は、穏やかな生活を、所望する、

我が家の個室が悪質で残虐なケミカル・ファンシー空間になってしまったのかと思うとなんとも落ち着かない。
そしてもし友人が来ようものなら「こんなペーパーを使うとは酷く日常のバランス感覚を喪失した、センスの死滅したとんだクソ野郎だ」と思われかねない。と想像すると落ち着かなさは倍々に増していく。

最近読んだ本に「私たちはパンだけでなく、バラも求めよう。日常にバラを」みたいな一説があったが、バラにも様々なバラがあり、自分に合ったものをその都度選び取っていかなければならない。

このような日常を侵食する食人バラは、求められるべきではなかった。
使う人によっては福音をもたらす至福のバラにもなり得たかもしれないが、私とは住むべき場所が違ったのだ。

とはいえ様々な生物が混在する地球において、私たちは共生していかなければならない。
食人バラよ、出会ってしまったからにはしばらく運命を共にしよう。
でもしみったれた事を言ってしまうけど、そんなに色気づかなくて良かったんだよ、ありのままの、君でいて欲しかったなぁ、って言っても木の皮の状態とちゃうで、もうちょっとこう、なんか、トイレットペーパーらしさってあるやん、え、それも私の身勝手な押し付けっていうんかいな、








# by shiitakesentaku | 2018-11-23 17:21 | 2018年11月

荒廃した都市に駐禁の風が吹く

神社の脇を通る裏道に立ち尽くしていた。
路駐していたバイクに黄色い紙が貼りつけてあるのを目にし、思考が停止してしまったのだ。
今年に入って駐禁を取られたのは四度目。腹が立つというよりも、行き場のない虚しさが訪れる。

この無限に広がる宇宙においては、駐禁など取るに足らないものなのだ。
砂漠における一粒の砂、微塵でなんの意味はない。とスケールを大きくして考えてみたが、そんなんで気が晴れる訳ないやろ!

フルスロットルで国道を駆け抜けたかったが、速度超過で捕まるのも嫌だし事故ったら痛そうだし、法定速度で暗鬱と呪いの言葉をまき散らしながら帰途についたのであった。

それにしても駐禁の監視員はなぜ皆あんなに陰鬱な顔をしているのだろう。
自分たちのしていることがどこか後ろ暗いことである、ということを分かっているからなのか。
だとしたら、そんなに頑張らなくていいんだよ。
ありのままのあなたでいて欲しい。
緑の制服など脱ぎ捨てて(自分たちはクリーンなんだ、ということを表明するために制服が緑なのだろうか。クリーン&グリーン。と想像するだけでよけい腹が立つ)海岸線を駆け抜けないかい?
すべてのしがらみを振り捨てて、ここではないどこかに突き進むのだ。

でもいつかは帰ってこなければならない。すべてを捨てたツケは払わなければならない。

金も住むところも無い人間は、犯罪などの堕落に陥りやすい。
そんなのは嫌だから、やはりあなたは人を取り締まる側でい続けるのだろうか。
あなたがその道を進むなら、僕は何も持たず取り締まられる側でい続ける。
目指す所は同じでも、ただそれに至る道が違うのだ。

と、幼馴染が善と悪に分かれてそれぞれの正義のために葛藤しながら戦う、物語でよくありそうなシチュエーションを思い浮かべたが、、そんなんで気が晴れる訳ないやろ!

ひたすら、その違反金を払わなければ出来た事をねちねちと考えつづける。小粋なアイテムを雑貨屋で買い、帰りにちょっと一杯ひっかけてもお釣りは来る。
そう考え続けるのも気が鬱屈としてくるので、駅前の飲み屋に入り痛飲して、どんどんと貧窮のスパイラルに陥るのであった。

荒廃した都市に風が吹き荒れる。入り組んだ建物に身を引き裂かれた風は、駐禁、駐禁、と叫び声をあげる。

てかさあ、そもそもちゃんと駐輪場に停めておけばよかったんちゃうん?
あほか、酒がまずくなるからそれ以上言いなさんな、





# by shiitakesentaku | 2018-04-22 08:41 | 2018年4月