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私は私というものを疾患している。

そして、それはいつかは癒えるようなものではない。
純潔天然の「本当の自分」なんて都合の良いものもないだろう。
虚実をひっくるめて形作られてきたのが自分なのだから、見たくないもの、私を滅ぼそうとするものもまた、私なのであった、、

という風なことを考えながら道を歩いていると、傍らをトラックが走り過ぎていった。
コンテナには「アクティブ感動引っ越しセンター」と書かれている。

アクティブ感動引っ越しセンター、なんとも恐ろしいネーミングである。

名前から察するに、もし仮に作業員が不注意でピアノを角にぶつけても「あ、ごっめーん。てか、なんかぶつかった時にいつもと違う響きしなかった?このピアノが持つポテンシャルが引き出されたっていうかさ。この際、もっと私達の可能性を試してみない?」
なんて言い出して、マンションの五階のベランダから、いっせいのーでで放り投げる。
歓声と拍手は上空にとめどなく反響している。

破砕して、潰れた甲虫のようになったピアノをうっとりと眺めて「このオブジェには美的進化の可能性がある」と評し、弦の隙間に花を差す、流木を食い込ませて構造を複雑化する、ポンプで水を循環させる、などの改良を加えた末、撮影隊を呼び込んで映像作品としてカメラに収める。

私達の感動のためには、引っ越しなど二の次なのだ。そもそも私達は何のために生まれて来たのか。
心と体を響き合わせて、きらめくような生命のセッションを繰り広げるためではないか。

制作した映像作品は、動画投稿サイトで10億再生回数を突破し、感動の波は世界に広がる。

さあ、サイトで得た広告収入で勝利の美酒に酔いしれよう。(会費は一人一万円ね)

私達は、世界中のあらゆるネガティブなものを叩き潰す!打つべし、打つべし!
そのためにはどんな戦いも辞さないのです!

なぜなら私達は、アクティブ・感動・引っ越しセンターなのだから!





by shiitakesentaku | 2016-12-30 16:50 | 2016年12月


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